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2010年1月24日 (日)

天声人語2010年1月17日(日)付 朝日新聞社

「15の春」といえば試練の代名詞であり、壁を越えた喜びを表す言葉でもある。生まれた子が少年少女になり、高校生や社会人として巣立っていく。それと同じ歳月が、阪神大震災の起きた日から流れた▼15年を機に「あしなが育英会」がまとめた冊子「遺児たちが語る、いまの思い」を読んだ。長くて短く、短くて長かったであろう、それぞれの来し方に胸が詰まる。今は男女2人の子に恵まれた岡田幸代さん(31)は、「この15年、どんだけ涙が出るのだろと思うほど泣いた」と書いていた▼川口綾香さん(27)も女の子をさずかった。しかし心の傷ゆえか、出産に臨んだ病院で「失うのが怖い」と口走っていたと、あとで看護師から聞かされた。「命あるものは死ぬ」という感覚が、今も強くあるという▼だが、それぞれの内には人への感謝が流れている。「独りじゃない」「忘れられていない」――そうして支えられてきた遺児は多い。遺児だけではない。人を励ますのは人なのだという確信は、あの震災を機に、災害列島の共有財産になっていった▼地球上で悲劇はやまず、今度はカリブ海の貧国ハイチを大地震が襲った。首都は壊滅し、死者は数万との情報もある。がれきの下で細くともる命の灯が、この瞬間にも消えていると思えばつらい▼神戸などでは、6434人の犠牲を悼みつつ、ハイチの苦難を思う一日となろう。地球という生き物の上で、誰もが災害と背中合わせに暮らしている。悲嘆の中に希望の灯を消さぬ英知と仕組みを、人類の共有財産にできないものか。

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